世界遺産アンコールワット遺跡群とバイヨン、森に飲まれゆく寺院パプーオン シェムリアップ カンボジア③
2018/04/26
15:24 【スラ・スラン】
「道の左がスラ・スラン。右はバンテアイ・クディだ。」
OK。
リュックを担いで歩き出す僕を、タティは手をあげ送り出してくれる。
スラ・スランは王が沐浴するために造った池だ。
池の中央には、今は壊れているが塔が建っていたらしい。
池に吹き渡る風が気持ちいい。
ほとりでボール遊びするちびっこ。
彼らには、遺跡も楽しい遊び場みたい。
【バンテアイ・クディ】
スラ、スランの道を挟んだ向こうがバンテアイ・クディ。
『僧房の砦』という意味があるここは、もとはヒンドゥー教寺院だったものをジャヤヴァルマン7世によって仏教寺院に造り替えられたという。
ここは迷路のような構造で、かなり楽しい。
遺跡の入り口に警備員とは違う男が三人いて、僕が近づくと声をかけてくる。僕の一眼カメラを見て、写真スポットを教えてあげるという。
タ・ケウでも同じような人がいた。何ヵ所か付いて回って写真を撮ると、最後にチップを要求してくる。
自分の写真のアングルは、自分で探すから楽しいと僕は思う。Thanks but no.
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車と違ってトゥクトゥクはのんびりと走る。
遺跡間の移動がまた、本当に楽しい。
対向のトゥクトゥクのお客さんと、すれ違いざま微笑みあったり。
いろんな風景がとても楽しい。
16:35 【プラサット・クラヴァン】
小規模ながら、全てが煉瓦造りの平地寺院。
基壇の上に5つの塔が一列に並び、中に見事な立像彫刻がある。ここもどうしても来たかった遺跡のひとつ。
残念ながら塔内に入れないので、入り口から無理やり写真を撮る。
夕方になってきて、写真の明るさが足りなくなってくる…
左は綺麗に残るラクシュミーの彫刻。ラクシュミーはヒンドゥーの主神の一人、ヴィシュヌ神の妻。
真正面から撮りたかった…
こちらは。残念ながら、かなり磨耗している。
++
「おみやげ1$。全部1$。これも。これも。」
クラヴァンからタティのところに戻る途中。
日本なら小学校低学年くらい。よれた服を着た女の子が、おみやげの載ったカバンを首に下げて僕に走り寄ってきた。
「カード、ワット、バイヨン。1$、1$。」
カバンにはアンコール遺跡のポストカード、同じくマグネット、魚の飾りの付いた手作りっぽいモビール。
その子の向こうには小さなあばら家のお店があって、母親らしき人がカンボジアの服やスカーフを並べている。
彼女は僕の目の前に来て、おみやげを次々に差し出してくる。
母親の元からはもう一人の女の子がこちらに向かいつつある。
「1$、1$。3つなら2$。」
彼女の目はまっすぐ僕を見ている。
まるで目をそらせたら、僕が消えてしまうと信じているように。僕は彼女の眼差しから目が離せなくなった。
1$。日本円なら100円ちょい。
少女はそれを得るために、必死で僕に商品を勧める。一歩も引かない気概を感じる。
そこにもう一人の女の子も加わり、二人は僕の左右から1$を繰り返し続ける。
結局僕は、彼女たちから一つずつおみやげを買った。
去り際に僕が手を降ると、見えているのかいないのか、そのまま二人はお店の方に去っていった。
++
「go to Hotel?」
だいぶ日も傾いてきた。初日としてはしっかり見て回れたな。
お願いしますと伝えると、彼は微笑みながら頷く。
…実にシブい。
僕も負けないように、シブめに笑い返してやった。
17:35 【ホテル前】
夕方の混雑を巧みに抜けて、タティはホテル前でトゥクトゥクを停めバイクから降りた。
『本当にお疲れ様でした。』
彼はヘルメットを脱いでゆっくりと振り返る。朝現れた時のように、ゆっくりと。
ーそして彼は、シブく微笑むんよね。
その通り、彼は微笑んだ。
少しの微笑みで、最高の笑顔。そこに彼の生き方があるような気がした。
「15$」
一言だけを彼は言った。会ってから言った言葉は両手で足りるな。そう思って笑ってしまった。
感謝の気持ちを込めたお金を渡すと、彼はにっこりして頭を下げた。僕も下げる。
こー 「写真撮らせてもらってもいいですか?」
タティは全く動じる風もなく頷いた。
そして僕は、彼の人生の一瞬をもらった。