カンボジア 世界の旅

トンレサップ湖観光クルーズとキリングフィールド 僕の出会ったカンボジアの過去と今  シェムリアップ カンボジア⑥

2018/04/26

11月7日(火)11:35 【キリングフィールド

小さい頃、よくTVから聴こえていた単語、『ポル・ポト派』『シアヌーク』。
平和な日本で僕が生まれた頃、カンボジアは荒れに荒れていた。

ベトナム戦争から広がった炎は隣国カンボジアにも飛び火し、政権を握った政治家ポル・ポトは”農業のみを行って平等な社会を作る”原始的共産主義を目指し、都市から人々を強制的に農村へ移動させた。

 

余計な知識、文化、技術は不必要

医者、教師、技術者、牧師等…多くの文化、知識層の人がこの考えのもと、虐殺された。
この殺戮はさらに拡大され、外国に行ったことがある者、歌手や役者、果ては字が読める者まで「反抗の可能性がある」として殺された。

またこの虐殺は、多くの子供達がそれを担った。
“余計なものに染まっていない”子供達は洗脳され、反抗の可能性があるとされる人達を探しだし、殺し、さらに医者の真似事までさせられていた。
これはカンボジアの発展を支えるべき人材を致命的に不足させ、続く内戦はカンボジア経済成長を大きく遅滞させる。

 

ここはそうして殺され、山積みにして埋められた人達の骨や遺体が出てきた場所。今は寺院となり、僧侶によって手厚く弔われている。

カンボジア各地に存在するその場所は『キリングフィールド』と呼ばれている。


 



 

13:00 【レストラン REAK SMEY

 

「Hello〜!Lunch here〜!」

3、4歳位の小さな女の子が店の前で叫んでいる。
通りに面した小さな食堂。テーブルは8つほど。天井には大きな換気ファンが回っている。
午前中を街の散策に費やした僕は、昼食をとる店を探してふらふら歩いていた。

 

「Hello〜! Lunch here〜!」

それしか知らないみたい。
店を覗くと店内が見通せる。奥
では店主らしき男性が笑って、僕と彼の娘を見ている。

女の子は立ち止まった僕を見て、ピューっと奥に戻る。
よしよし、お昼はここにしてみよう。

テーブルに着くと、ご主人がにこやかにメニューを持って来てくれ、女の子のお兄ちゃんがお水、そして女の子は店内を歩きながら笑顔をくれた。
写真はルックラック(手前の皿)3$に、奥が朝採り空芯菜の炒め物1$。合計で4$(約400円)。

値段の安さも去ることながら、ここのルックラックは肉も多くて美味しい!!味付けが抜群に良いし、胡椒の付けだれが他の店より群を抜いている。ご飯があっという間になくなった。

食べ終わってご主人にすごく美味しかったと伝えると、ものすごく喜んで、いつまでいるの?ぜひ滞在中にまた食べにおいでと握手してもらった。

実際僕は旅行中三回の食事と、ちびっこ達に会う為にここへ来た。

 

 

14:20 【ホテルロビー

シャワーを浴びて、カメラを準備して部屋を出る。
今日はシェムリアップから南へ11km。カンボジア中央に位置するトンレサップ湖のクルーズに向かう事になっている。

待ち合わせのロビーには、すでに小太りのツアーガイドが待っていた。

「こんにちは、初めマシテ。」

静かに彼はそう言った。
少し冷たく聞こえる話し方だな。第一印象はそんな感じだった。

 

++

 

車はシェムリアップの街を南へ走る。
昨日ビッチャイとトゥクトゥクで走った道だ。道の右手にハス畑、左は大湿原。

「一人旅なんてすごいわぁ。今までどんな国へ行ったの?」

「最近はアジアの近いとこばかりで。仕事が長くは休めなくて。」

「僕も一週間です。今回は3カ国周ってます。」

「一週間で3カ国!忙しいわね~(笑)」

「私は5日間です。綺麗なサンライズとサンセット期待してたのに、雨に降られてダメだったんです~。」

同行する事になった人たち。車中はおしゃべりの花が咲いている。

 

16:00 【船着き場

駐車スペースには数台の観光バスが停まっている。もちろんアスファルトではない。
チケットをガイドから渡され、船へと向かう。
売り場を抜けるとその先には、広い広い湖が広がっていた。

「よしよし、お天気はもってるな。」

雨に好かれた女の子が呟いている。
船にはいくつかの種類があって、大人数の乗り込める二階建てのものや、スピードの出る小型船など。僕たちの乗る船も、僕たちだけで一杯になる小型のものだった。

僕たちが乗り込むと、船はゆるゆると発進した。

湖上の小学校。
終わりの時間に子供を迎えに来た母親たち。
舟には弟や妹も乗っていて、お兄ちゃんお姉ちゃんをお迎えしていた。にわかにあわただしくなる校内。

教会もある。屋根上のクルスが、陽光を受け輝いている。

 

++

 

船出から20分ほど。船は向こう岸の全く見えない場所でエンジンを停めた。
眼前には空と、どこまでも広い水面だけ。潮の匂いがしない以外、海にしか見えない。

「今は乾期に入りつつあるので水は減ってきています。ここまで来る途中、岸辺には足の高い家々がありましたね。雨期にはあの足のぎりぎり上まで水が増えます。琵琶湖に例えると、乾期で約4倍、雨期のピークには15倍もの広さになります。
乾期以外にはここから首都のプノンペンまで船で行くことも出来ます。」

圧倒的に増減する湖らしい。

「では今から日没前まで、休憩できる場所に移動します。夕日はその二階で鑑賞しますから。」

 

16:55 【湖上展望台、兼お土産食堂

船がそこに着岸する前に、二人乗りのボートが何艘も漕ぎ寄ってきた。
クルーズ船にたどり着くと、母親と子供は身をのりだし船内の客に、自分の子供と首の蛇をアピールする。
母親に促されて、子供も声を出しながら蛇を持ち上げたりさらに首に巻き付けたりした。

クルーズ客の反応は様々だ。手を打って笑う人、写真を撮る人、じっと見いる人。

 

湖上展望台は二階建てになっていた。
船から上陸すると、沢山のワニを囲ったスペース。その横にはお土産コーナー。奥には薄暗い、食事のできる食堂がある。
僕たちが上陸した時、そこでは大陸からの団体が大きな声で食事中だった。

「ここで夕日を観賞します。中央の階段を登ると周囲をぐるりと見渡せます。ご自由に過ごして下さい。」

ガイドはそう言って、車で一緒だったマダムたちに写真を撮り始める。
僕は二階にあがる。

 

展望台にはたくさんの観光客がいた。
地平線には帯状に雲がかかっているけど、そこに落ちていく太陽は十分にサンセットしている。
水草の繁る湖面が夕日を受けて輝く。

僕も観光客に混じって、それらを写真に納めた。

 

でも僕の興味は一階の賑やかさだ。
階下に目をやると、展望台の周りには多くの小舟が寄せていて、大声で客に呼び掛けている。
数枚の夕景を撮って、再び僕は一階に降りる。

一階はたくさんの声が溢れている。
明らかに人数は増えている。小舟から展望台の際に取り付いて、自分の幼い子供を抱え上げて見せている。誰も内部に上陸してこないのは、そう強く決められているのだろう。

「〜〜!〜〜〜〜!」

クメール語は僕にはわからない。けれど彼女たちが何と言っているのかはわかる。

 

 

ついと食堂で食事をとっていた団体客の一人が立ち上がる。お酒を飲んでいる為に、少しふらつきながら。
彼は水際まで行くと立ち止まって、取り付いた人たちを見渡した。必然的に見下ろす形になる。

それから財布を出し、お金を渡しだした。
そうしながらテーブルの連れ達に、笑って何か言っている。テーブルからも大声でヤジが飛ぶ。

数人にお金を渡し、彼はテーブルに戻る為ゆっくり歩き出す。
その背中へ、たくさんの叫びに近い声が掛けられる。でももう彼が振り向く気配はない。テーブルに戻ると、また食事が始まった。

 

水際で子供を抱え上げながら、大声で叫ぶ集団と、ビールを飲みながら大声で笑う集団。
僕の横をちょうどガイドが通りがかった。僕はたまらず聞いてみる。

「あの人たちはどれくらい貧しいんですか?」

「様々です。衣食に困る人もいれば、全く普通に暮らしているけどお金を貰うために混じっている人もいます。貧しい人たちばかりじゃない。だからお金は渡さない方がいい。」

 

「子供と一緒に見世物をして物乞うその横で、ビールを飲んで騒ぐ人たちがいて。僕は、僕は…」

言葉の出ない僕を小さく鼻で笑って、ガイドは離れた。

 

僕は目眩がしそうになった。

 

++

 

サンセット鑑賞タイムが終わり船に乗り込むとき、彼女と目が合った。
少し汚れた顔をして、左右に揺れるたらいを櫂で操りながら、彼女は僕に話しかけてきた。

僕はまた、金縛りに合ったように彼女から目が離せなくなった。彼女の強い光が僕を離さない。
操られるように僕は財布からお金を渡す。

するとそれに気づいた周りの子達も僕の周りに集まってきた。その子達にも渡す。
それを見た向こうの母親たちも、こちらを見てなにか言っている。

 

僕は逃げるように船に乗る。クルーズ船に戻っても、小舟やたらいはこちらを目指している。

「私今、高額紙幣しかないんです!」

「お金はね、ないのよ〜。持ってないのよ〜」

女の子やマダムたちが窓の外に言っている。すぐにクルーズ船は、それらを振り切るように動きだした。

 

船首でガイドが僕を見ているのが分かった。

 

++

 

帰りのバスでも楽しく会話は弾んだ。けれど僕の心の中は複雑だった。

食堂での大陸の客の『お恵み』に、僕は嫌悪感を抱いた。それは違うと強く思った。でも僕がした事と、ではどれくらい違うのだろう。実際にはただ数人の人に、少しのお金を渡しただけ。

素振りが違う?心の中が違う?
やった結果は同じだった。

どうすれば良かったのだろう。
どうすれば良いのだろう。

この国で僕はあの”瞳”に、どう対していけるんだろう。

 

 

街に到着し、皆と挨拶して別れた。
食堂で夕食を食べながら、ガイドの別れ際の目を思い出す。
その日の食事は、何とも言えない味がした。

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