カンボジア 世界の旅

パプーオン・ピミアナカス・ライ王のテラス アンコールトム遺跡群と素敵な人たち  シェムリアップ カンボジア⑤

2018/04/26

11月11日(土) 【関西国際空港

入国手続きを終え、僕は八日ぶりに帰国した。

寒い。
カンボジアとの気温差は15℃。半袖にペラペラのシャツは秋の日本には薄すぎる。

茶色と緑の世界から、白と青の世界へ。
いや、曲線から直線の世界か。

バックパックに荷物をまとめ直しスマホの電源を入れると、保留になっていたメールが一斉に届く。

「Hi friend. You arrive Japan yet?」

ビッチャイからのLINE。

「Take care my friend. Have a good day and Budda bless you!」(身体に気を付けて。良い日々と、仏陀の恵みがありますように)

 

カンボジアの友人は、今日も元気に走っているみたいだ。



 

11月6日(月)8:10 【ホテル前

「Hi! I`m Vichhay.」

彼はそう挨拶して笑った。満面の笑顔で、浅黒い肌に白い歯が大きく目立っている。
ビッチャイは僕が手配したドライバーではなく、今朝知り合った日本人のチャータードライバーだ。
僕たち三人がトゥクトゥクに乗り込む時、僕はバッチリ彼と目があった。

「Hi!」

そう言って彼は、笑顔をさらに二乗にした。

…こいつ、ええ奴。
僕の中の『善人レーダー』は、彼に大きく反応した。

 

++

 

今朝ホテルの食堂で日本人二人組と知り合った。
一人は60代、もう一人は20代の男性。若い方がもう一人を「先生」と呼んでいたから、師弟関係だろうなと思った。

「日本の方ですか?」

若い方が部屋に戻ったので、”先生”に話しかけてみた。細身で、見るからに学者肌な感じ。
先生は落ち着いた口調で「ええ」と答えた。
話を聞くと、この先生は東京の大学の教授で、若い方は教え子らしい。

僕がバイヨンに向かうことを告げると先生は、明日からの仕事場はそこで、今日も下見にバイヨンに寄るから一緒にトゥクトゥクに乗っていくといい、と言ってくれた。

 

 

8:20 【ビッチャイのトゥクトゥク上

先生 「私はカンボジアは今回で17回目だ。日本の大学で教えるかたわら、こちらで彫像の修復や複製を造ったりしている。彼は私の教え子で、大学の生徒だよ。」

末松(仮)君 「末松です。先生の紹介で、初めてカンボジアで先生のお手伝いをさせていただける事になりました。」

末松君はおっとりとした口調でそう言った。
がっしりとした骨太な体型。穏やかで少し気弱そうな雰囲気だけど、中国の敦煌でも三か月遺跡の修復に携わったという。

「せっかく敦煌で5キロ痩せたのに、日本に戻ったら7キロ増えちゃって…」

悲しそうな顔が逆に笑いを誘った。

 

先生はカンボジア17回目だけあって、いろいろな情報をお持ちだった。
遺跡の効率的な周り方とか見どころ、物や乗り物の相場。それに今のカンボジアの事。

「あの人だかりは、診療待ちの患者さんだ。奥の建物が病院。フランスの出資で安く診察が受けられる。」

「病院前の道路は、こんな風に小さなスロープになっているだろう?これはスピードを落とさせる為のものだよ。」

「カンボジアでは仕事で制服の色が別けられている。緑は主に清掃、水色は遺跡整備や修復、役人は白シャツだ。」

 

やがて右手に広い敷地と、肌色の建物が目に入る。

先生  「右手に見える建物がシェムリアップのユネスコ事務所。僕と末松君はそこに勤めている。」

末松君 「僕は昨日カンボジアに来ました。今日は仕事がオフで、先生が遺跡観光をしてくれるんです。」

先生  「明日からは一日中石を刻むことになる。丁度作業場所がバイヨンだ。石仏の元になる石がある。彼が降りる時に見よう。」

 

++

 

バイヨンの周りを象に乗ってまわる観光客。
横をトゥクトゥクが走っても驚きもしない。南国ならではの風景。

 

「帰りも良かったら拾ってあげよう。私たちも遺跡観光自体は昼までだ。お昼も一緒にどうだい?まあ、良かったらだけどね。」

僕はありがたく、その提案を受けた。

 

9:00 【アンコール・トム

二人の仕事場を見た後、僕は一人トゥクトゥクを降りる。
僕の前を通り過ぎる時、ビッチャイは又白い歯を見せながら笑顔で手をあげた。

ええ笑顔やなぁ。

さて。
カメラと共に、僕は再びアンコールの世界へ向かう。

 

パプーオン

昨日駆け足になってしまったので、今日はじっくり見て回る。
アンコール・ワットももちろん素晴らしいけれど、ここの雰囲気の方が僕は好きだ。

刻まれた物語は、記憶と共に時が消し去っていこうとしている。

 

 

ピミアナカス

「天上の宮殿」「空中楼閣」という意味を持つ寺院。
今は失われているが、寺院頂上には金箔に覆われた黄金の塔があったという。
残念ながら、ここは立ち入り禁止になっている。周りから眺めるのみ。

 

 

象のテラス・ライ王のテラス

王が閲兵を行ったテラス。
段のある壁面にびっしりと彫刻が施されている。

 

 

 

12:25 【モイモイ・カフェ

ビッチャイのトゥクトゥクに合流し、僕たちは先生行きつけのレストランに向かった。

モイモイ・カフェは日本語の通じるレストランだ。
従業員は日本語を話すし、メニューは納豆や味噌汁なんかもある。経営者が日本人なんだそうな。街中で食べる食堂より高いけれど、先生はここをよく使うらしい。

僕たちが話している間、ビッチャイは一人メニューを見ている。

 

こー  「ずっと運転でお腹減ったやろ?」

ビッチャイ 「お昼を抜くことはよくあるよ。食べる時も、もっと安いとこだよ。」

そういって照れたように笑う。
お客の観光具合によって時間はまちまちだろうし、先生みたいにご馳走する人ばかりじゃないに違いない。

 

ビッチャイ 「こうやって誘ってもらえるのは嬉しい。」

先生に頭を下げたあと、二カッと笑う。
礼儀正しくて、おもしろい。
料理を食べている間、みんなでいろんな話をした。

みんなの歳は?カンボジア語は難しいね。1,2,3は何て言うの?今が快適?暑いよ~。

アモック。雷魚のココナツミルク蒸し。とろり柔らかくクリーミィでめちゃ美味しい。

 

先生  「お昼からは彼の知っている、ガイドブックに載っていない場所に連れていってくれるらしい。君もどう?」

アンコールトムは堪能できたし、お昼からは何も決めていないし。ご一緒させてもらおうかな。

 

14:20  【ハスの池

シェムリアップの街から南へ20分ほど。川沿いの道をゆく。
ちゃんとした家もあれば、掘っ立て小屋の様な家もある。
上半身裸で過ごす子供や男たち。川に釣り糸を垂れて話している男の子たち。投げ網をしている人もいる。

 

末松くん 「ここまで来ると、だいぶん街とは雰囲気違いますよね。」

道の左側は見渡す限りの湿原が広がっている。雨季が完全に終わっていない今は、道や畑らしき場所も水没している。足が長ーくて窓のない地元の人の食堂が、その湿原に向けて数軒たっている。

 

ハス池の観賞スポット入り口は、掘っ立て小屋同士の間にあった。アクリルのボックスに札が数枚入っている。カンパ制かな。

先生は自分のペースでゆっくりと見てまわっている。僕は末松くんとビッチャイと写真を撮りながら歩く。

末松くん  「僕、トンボ好きなんです。カンボジアには日本にいないの飛んでるから興奮しますね!」

ビッチャイ  「君は女の子みたいだね!トンボが好きって。」

 

こー  「ヘイ、ビッチャイ!それは失礼やで!日本にはトンボの歌があるくらいトンボ好き多いで!ゆ〜やけこやけ〜の、赤ト〜ンボ〜♪」

末松くん  「それトンボの歌でしたっけ?トンボのメガネは銀色メガネ〜♪の方が良くないですか?」

ケタケタ笑いながら見てまわる。

 

こー「この床板、薄い板やなぁ。歩いてたらパキッと割れて、池落ちるんちゃうか?」

ビッチャイ  「そしたら大変だよ!ここ、アリゲーターいるからね。」

こー、末松くん 「うそや〜!!」

ビッチャイ  「ハハハハ」

 

末松くん  「そうだ、ここで写真撮り合いしましょうよ!みんな一人ずつ別の人を撮りましょう!」

こー  「OK! じゃあ順番に、ここ座って…」

 

++

 

末松くん  「あれ、先生がいませんね。先にトゥクトゥクに戻ったかな。ちょっと見てきます。」

 

ふと空を見上げると、飛行機が飛んでいた。
僕も三日前、機内でこの湿地帯を見て感動した。その時も、誰かこんな風に僕の乗る飛行機を見上げていたのかな。

こー  「カンボジアが平和やったらええなと思うねん。日本も。世界が平和であってほしいと思うねん、僕は。」

隣で空を見上げながら、ビッチャイは黙って聴いてくれていた。

 

 

19:30  【レストラン クーレンⅡ

舞台上ではクメールの伝統舞踊が始まった。
『アプサラダンス』と呼ばれるもので、アプサラという女神の踊りだ。手のひらの様々な形で生から死までを表現しながら、神々の恋などを舞う。

 

ダンスを見ながら、今日出会った人達の顔を思い出す。
先生と末松くんはホテルが一緒だから、滞在中は顔を合わせる事もあるだろう。と言っても二人は仕事だから、一緒に観光することはないだろうけど。

ビッチャイとは別れ際、ラインのアドレスを交換した。翌日の予定を聞かれたけど、明日はトンレサップ湖のツアー、明後日は遠方の寺院、プレア・ヴィヒアのツアーがある。

 

こー  「三日後の予定はまだなんだ。もしその日、君のトゥクトゥクがチャーターされてなければ乗せてもらいたいなぁ。」

彼とはもっと話したかった。カンボジアの事もだけど、ビッチャイ個人の事も知りたい。波長が合った、という感じ。
ビッチャイはニカッと笑って大きく頷いてくれた。

 

今日は本当によく笑った一日だった。
先生と末松くん、それにビッチャイ。旅の出会いが目白押しやな。そう思うと心の底からワクワクしてくる。

 

これが『こーの旅』やで。

ビュッフェの一皿目を平らげ、おかわりをしに僕は元気に立ち上がった。

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