カンボジア 世界の旅

バイヨン再訪とプリアカン遺跡 炭焼き煙の向こうの笑顔  シェムリアップ カンボジア④

2018/04/26


11月5日(日)19:45
 【レストラン カンボジアントップテーブルズ

店内に肉や魚の焼ける音と美味しそうな匂いが立ち込めている。
店と言っても屋根だけがあるオープンなレストラン。
大通りに面したその店は、店頭に大きな炭焼きグリルがあって、新鮮な魚介類、鶏、豚、牛の肉の塊がもうもうと煙を上げている。

金曜土曜とヘルシーなクメール料理だったので、猛烈に肉が食べたくなった。
アルミテーブルにパイプいす。座った席は炭焼き場所のすぐ近く。ジュージューと豪快に焼いてはひっくり返される肉。

いい席やなあ…
一眼出して、焼いてる途中のお肉と店員にカメラを向けると、ピースが帰ってきた。

とにかく。カンボジアビールと鶏のもも焼きを注文する。
僕の空っぽ胃袋は、肉の焼ける音と匂いで早く食わせろと催促している…

 



 

8:10 【ホテル

夜中から激しい雨が降っている。
叩き付けるような音で目が覚める。

いよいよ来たか。
予報では台風が旅行二日目ぐらいにカンボジアに到達するとの事だった。到達する頃には熱帯低気圧に変わっているはずだったけど、夜中の雨の勢いは相当なものだった。

これは止むまで観光は無理かな。
合羽は持って来ているけど、そこまでするほどタイトな日程の旅ではない。

午前中はカフェでブランチして、小降りになったら街を散策してみよう。

++

 

激しく降った雨で、道はあちこちこんな感じに。
車がぶっ飛ばすのは郊外の田舎道くらい。すごくゆっくりと走ってくれるので、泥を浴びることはない。

「トゥクトゥクどう?」

走りながらでも声を掛けてくるお兄さん。今はいいです、Thank you!

 

ちびっこも開店準備。商品の入った袋の封を外そうと試みる。

街を歩いていると雨は止んでくる。
これなら午後からは遺跡に向かえそう。楽しいから午前中はこのまま街を歩きますか。

 

シェムリアップの『パブストリート』。
昼間は遺跡観光を楽しむ観光客は、夜になるとここに押し寄せる。レストランにバー、屋台が集まっている。
まさにネオンと音楽のるつぼと化す。

 

パブストリート近くの市場。
地元の人たちで活気に溢れている。市場には食品の他に衣料品、おみやげもあり食事もできる。

 

 

11:15 【カフェ

雨は完全に上がった。曇ってはいるけど、お昼からは再びバイヨンに向かうことにする。

コーヒーと、日記帳と。
こんな過ごし方も、旅の贅沢のひとつ。

 

 

14:10 【バイヨンに向かう途中の道

「アンコール・トムだけって言ってたけど、他に見たい場所は?そこだけだと勿体ないぜ?」

トゥクトゥクドライバーはそう言って勝手に地図を広げる。
道で客待ちしてたのを雇ったトゥクトゥク。交渉の時に値段は決めて乗り込んだけれど。

まあ、これが普通か。
一度乗せてから行く途中でもう一度交渉してくる。
全然知らない場所まで来てこう切り出されたら、不安にもなるし、断りにくいわな。
実際バッサリ断って、ここで降りろ的な展開になることもままあるとかないとか。

「どうだい?行きたい場所があるなら安く行くよ。」

 

ふむ。断ってもいいけどそんな悪人そうには見えない。もうちょっと稼ぎたいんだろうな。
アンコール・トムは今から見ても、たぶんまた写真撮り切れない。さらにもう半日取るつもりでいよう。
なら今日は…バイヨンとアンコール・トム+もう一か所、かな。

 

「プリア・カンならいくら?」

昨日のコースに含まれなくて、アンコール・トムからそう遠くなくて、必ず見たかったところ。

「それはいい選択だよ。20$」

「17で。その値ならお願いします。」

 

ドライバーは笑いながらバイクに戻った。

 

++

 

昨日バイヨンを訪れた時には壁の彫刻を見る時間がなかった。
中央祠堂は鑑賞済みなので、今日は彫刻のある回廊を見て回る。

バイヨンの構造は中央祠堂を中心に第二回廊、第一回廊に囲まれた造りをしている。
大外を取り巻く第一回廊にはチャンパ軍(現在のベトナム中部にあった国)との闘いや庶民の暮らしが描かれている。
これはチャンパ軍との水上戦の様子。

混戦の中、船から落ちワニに食べられる図。

象に乗って進軍する将と兵士。

 

こちらは第二回廊。ヒンドゥーの神、ヴィシュヌに貢物をする人々。

その場に居合わせているような錯覚を覚える。

二時間の時間のうち、一時間はバイヨン、もう一時間は周辺遺跡に。

 

++

 

パプーオン

三層のピラミッド型の寺院。
在りし日にはバイヨン寺院よりも高く、50mほどもあった。

門をくぐると長い『空中参道』が待っている。

この長い参道は、地上界と天界をつなぐ虹の架け橋という意味があるそうな。
歩いていると、これを造った人の意図を全身で感じることが出来る。

 

 

 

16:15 【プリア・カン

出発が遅かったために、到着はこんな時間になってしまった。
だいぶ陽も傾てきている。あんまり長くは見ていられない。

今日のドライバーは、時間は何も言わない。陽が暮れて運転するのも慣れているのだろう。
その点はありがたいけど、タティほど信用することができない。

あんまり暗くなって、二人でいたくはないな。
それにプリア・カンは昨日より街から遠い場所にある。

一時間、やな。

カメラを持って、速足で遺跡へ向かう。

 

++

 

遺跡への参道に、二段になったテーブルを出して少女が果物を売っている。
スイカ、マンゴー、バナナにオレンジ…

「Hello! Woud you like some furuits?」

夕方。参道にはもう観光客はいない。
僕は少女を見る。

「Hello! Woud you like some furuits?」

小学校高学年くらい。聡明そうな顔をしている。
瞳はまっすぐに僕に向けられている。

 

僕は少しだけ微笑んで通り過ぎる。
彼女はそれ以上、僕に勧めることはなかった。

 

++

 

プリア・カンはジャヤヴァルマン7世がチャンパ軍との戦いに勝ったことを記念して建てた寺院で、父親の菩提寺だったとされている。
建造には10万人もの人夫が動員され、大変な賑わいだったらしい。完成後、たくさんの職種の人たちが周辺に村を形成し、仏教教義の学びの場になっていたとか。

ここも、あちこちが崩れ朽ちていっている。修復が追いついていない。
他の遺跡でも思うことだけど、あと何年この素晴らしいものを見ることが出来るのだろう…

他とは違う、二層建ての建築。
まるで西洋の神殿のようにも見える。

 

++

 

「明日の予定は決まってるの?」

トゥクトゥクに戻るとドライバーは笑いながら地図を出し、営業を始めた。
なかなかに商魂たくましい。

 

「明日と明後日はツアーの予約をしてるんです。その次の日は帰国です。そうだ!ネームカードとか持ってますか?旅好きな僕の友達にあなたを宣伝しておきますよ!」

僕がそういうと、彼は嬉しそうにカードをくれた後、機嫌よくトゥクトゥクをスタートさせた。

 



 

20:25  【レストラン カンボジアントップテーブルズ

 

奥さん  「アハハハ。それは胡椒の実よ。辛いでしょう」

そう言って大笑いした。

鶏のもも焼きを平らげ、僕は昨日と同じく『イカの生胡椒炒め』を注文した。胡椒の辛さがなかなかクセになる。すずなり胡椒をパクっと食べると、舌と口中に刺激が広がる。思わず顔をしかめると、隣に座っていた夫婦が話しかけてきた。

 

奥さん 「少しずつ食べた方がいいわよ~。いっぺんに食べると、舌が痺れちゃうから。」

さも可笑しそうに笑っていて、横の旦那さんも苦笑している。僕も釣られて笑ってしまう。
二人で話していた言葉は英語ではなかったな。ロシアの方かな…。

 

旦那 「僕らはポーランドからだよ。君は?」

こー 「日本です。ポーランドからですか!カンボジアまではかなり遠いんでしょうね?」

旦那  「八時間くらいかな。乗り継ぎして三日前に着いた。着いた初日にそれ(生胡椒炒め)を食べてね、同じく家内に笑われたところだった。」

奥さんはまた笑った。本当に楽しそうな笑顔。

 

こー  「ポーランドに比べたら、ここはずいぶん暑いんでしょう?」

旦那  「だから毎晩ビールが旨い。」

一緒に乾杯させてもらう。昼間の疲れも、これで消えていくみたい。

 

旦那  「君はポーランドに来たことはあるかい?」

こー  「ありません。かなり遠い国というイメージがあって。実はよく知らないんです。」

旦那  「確かに日本からだと遠いね。ヨーロッパの手前になる。でもポーランドでは、小学校の頃には日本の事を教わるんだよ。」

旦那さんがそう言ったのを聞いて、奥さんは呆れ顔で笑う。ホントかしらって顔だ。
それを見て僕が笑うと、旦那さんは、嘘じゃない、本当だよと取り繕った。

 

いい夫婦だな。
優しそうなご主人と、朗らかでしっかり者の奥さんって感じ。お互いを本当に大事に想っているのがすごくよく分かる。
僕たちはそれから、行った遺跡の情報を交換した。二人は二日後に帰国されるらしい。

 

こー 「あの…すいません、僕英語が下手で。分かりにくいですよね。」

旦那 「ハハハ。僕たちは君の言うことが分かる。君も僕の言うことが理解できている。言葉というのはそれ以上でもそれ以下でもないじゃないか。」

 

こー  「…もしよろしければ、写真を撮らせてもらえますか?初めての東南アジアで、出会えた素敵な人達を撮りたいと思ってて!よろしければ、なんですが…」

旦那  「僕たちでいいのなら、もちろん。」

奥さん 「ビューティフルに撮ってね!」

そう言って二人は顔を合わせてまた笑った。

 

 

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