カンボジア 世界の旅

初めてのアンコールワットと遺跡群、そしてタティ  シェムリアップ カンボジア②

2018/05/20

11月6日(月)11:55 【アンコール・トム

 

ビッチャイ 「じゃあさ、僕は二人と客席に座ってるから、今度は君がトゥクトゥク運転してよ。」

そういって彼はいたずらっ子の様に笑った。
それがジョークだということに一瞬気付かなかった僕たちは、彼の、あれ?という顔で大笑いした。

 

こー 「ムリムリムリ!できるわけないやん!!何で僕!?ほら、他に二人おるやん!!」

笑いながらそう言うとビッチャイは、いやいや君じゃなきゃダメといってまた笑う。他の二人も、うんうん君だねと頷く。

気温の上がってきた正午の日差しの中、ビッチャイの白い歯がいっそう大きく見えた。



 

11月4日(日)7:00 【ホテル 食堂

シェムリアップ初日。
日本で見た天気予報では、カンボジアに台風が向かっていたけど、外は薄曇り。雨は降りそうにない。

思っていた以上に気持ちいいホテル。予約サイトの写真なんていつもアテにならないけれど、このホテルは写真通り。
庭のプールも泳げるように保たれているし、部屋もきれいで広い。食堂もこのとおりいい感じ。

 

さて今日は。
カンボジアには電車はない。市民の足は車、バイクにトゥクトゥクだ。
特にバイクの後ろに二人乗りするバイクタクシーと、小型バイクの後ろに客車を付けたトゥクトゥクが多い。
トゥクトゥクは街中のいたるところで客待ちをしている。
バイクタクシーは安くて小回りが利くけど、事故った時に恐いので僕はあまりお勧めはしない。

昨晩レセプションでトゥクトゥクのチャーターの値段を聞いた。

アンコール遺跡を周るおススメコースがいくつかあるようで、「小回りコース」「大回りコース」「郊外遺跡コース」など。
それより遠方はトゥクトゥクでは時間がかかりすぎるので、車のチャーターがいいそうだ。

遠方は日本で後日予約しているので、今日は「小回りコース」にしよう。

 

バックパックから小さいリュックを取り出す。カメラとガイドブックを入れて。
何でも見て、何でも撮る。全身で感じて、一杯食べる!

さあ、アンコールの世界へ。

 

 

8:48 【市内

朝の街はまだ暑くはない。薄曇りのせいもあるんだろうけど、半袖着てたら丁度いい。
道沿いには客待ちのトゥクトゥクがあちこちに停まっている。
朝食を出す店以外はまだ閉まっている。ケース付きのリヤカーで麺を出す店。揚げパンみたいなのを出す店。

 

東南アジア初めての僕は、トゥクトゥクというものに乗るのも初めてだ。
少し高い視点で周りを見渡せ、暑い中風を直接受けながら移動できる。

バイクタクシーは手がふさがる(ライダーに掴まっていないといけない)けど、トゥクトゥクならフリーだ。これなら写真が撮れる。実際今回の旅では、たくさんの写真をトゥクトゥク上から撮った。

 

朝の明るい街の景色を『安全な場所から眺めている』。まだ不安交じりの心の僕を乗せて、トゥクトゥクは走る。

 

9:00 【アンコール・ワット

「2HOURS」

タティは聞きづらい英語で言った。

 

彼はホテルでアレンジしてもらったドライバーだ。ホテル前で待っていると、フラッと『ちょっとお散歩してて立ち寄った』みたいな風情で現れた。
僕を見て、何も言わずにこくりと頷くとトゥクトゥクに招く。

大丈夫なんかなこの人…まぁ、ホテルで手配してもらった人だし、大丈夫やんね…

僕は元気よく挨拶して、彼のトゥクトゥクに乗り込んだ。

 

 

タティ 「ここで待っているから」

そういって彼は頷いた。
アンコールワットの駐車場は車、トゥクトゥク、バイクタクシーでごったがえしている。駐車場とはいえアスファルトではなく、水たまりの多い土のスペースだ。
しっかりと場所とタティの顔を憶えてから、人の流れの方向に向かう。

 

観光客が多い。予想以上に。
遺跡手前には大きな水堀があり、そこに浮橋がかけられている。浮橋の手前にチケットチェックがある。

ホテルからここに来る前に、チケットセンターでアンコール遺跡入場券を買った。
アンコールワットを含むアンコール遺跡を見るには入場券が必要で、各遺跡入り口には必ずチケットチェックポイントがある。

・一日券 37$(4000円)
・三日券 62$(7000円)
・七日券 72$(8000円)

物価は安いけど、これは国際価格。

 

ここがアンコールワットか…
映画や写真で見た、カンボジアの世界遺産。

 

 

中央祠堂に登るには長い順番待ちがある。
アンコールワットは正面が西向きの為、午前中は逆光になる。写真を撮るには午後からの方がいい為、午前中は人が少ないと言われる。それでも40分待ちだ。

この急な階段をのぼる。
これより上は服装制限があり、ノースリーブ、タンクトップや膝より上のパンツなど露出が高い服では入れない。そして帽子は脱帽。

写真撮りながらだと、2時間では見きれない。帰国までにまた来ないと。

 

 

11:30 【バイヨン (アンコール・トム)

次に向かったのは、一番見たいと思っていたバイヨン寺院。

 

この遺跡は、アンコール朝中興の祖ジャヤヴァルマン7世によって造られた。
バイヨン寺院は王都としてアンコールトムを造営した彼が、都の安寧と発展を願いバイヨン寺院を建設。

寺院の中央祠堂。
どこに立っていても、大きくて優しい微笑みに見守られている。これは観音菩薩様で『クメールの微笑み』と呼ばれている。四方に向けられた微笑みは「世界全体を慈愛で満たす」という名目で彫刻されている。

見上げると、子供の時に両親に優しく見下ろされた記憶、そんな安心感を覚えます。

 

観音菩薩さまの下、あちこちに踊り子の彫刻が。これはデバターと言い、アプサラの踊りを舞う女性を彫刻したもの。全て顔形、表情まで違う。
女性らしい柔らかな曲線、衣装や冠の細やかさ。今にも動き出しそうな。

見とれていると、ふっと香水の香り。
え?彫刻から?
はっとして横を見ると、金髪の美しい女性がいた。彼女も「彼女に」見惚れていた。

「What a beautiful…」

 

yes, like you. 心の中で僕はつぶやく。

 

++

 

バイヨン周辺にはいくつもの遺跡が点在し、アンコール、トムを形成している。
僕の選んだショートコースでは、バイヨンだけ見てアンコールトムを後にする。

もちろんドライバーに交渉して、ここに時間を裂くことも出来るのだけど。あと1、2時間見たところで全部は見きれない。ここもワットと共に気の済むまで見て撮影したい。
また後日来ることにして、今日のところは次の遺跡へ。

 

 

12:46 【タ・ケウ

ヒンドゥー教寺院。
10世紀末にジャヤヴァルマン5世によって建設が始まるも、王が亡くなりタ・ケウは完成せずに放置された。

 

建設が途中で中止されたため、彫刻がきわめて少ない。他の遺跡とは違う重厚な雰囲気。

 

 

寺院門前で遊んでいた子供たち。
一枚撮ると、「もう一枚、もう一枚」。腕白そうないい顔。

一番年長の男の子。
「恥ずかしいからやめろよ~」とおちびさん達にいいつつ、写真を撮らせてくれた。

 

++

 

トゥクトゥクに戻ると、タティはうたた寝していた。

「NEXT?」

彼はそう言って、少し照れくさそうに頬を緩ませる。つられて僕も笑ってしまった。

 

13:25 【タプローム

ここはアジア圏の観光客に大人気の遺跡なのだそう。樹木が遺跡を破壊、あるいは支える様が、仏教的な『無情感』に訴えるのかもしれない。

熱帯の植物の生命力は、日本のそれとは全く違う。
今の支配者が誰なのか。
それは破壊者なのか、それとも保護者なのか。

 

 

++

 

「hungry?」

そういえば時間は午後2時をまわっている。
yesと答えると、タティは頷いてからトゥクトゥクを始動した。5分ほどで食堂にたどり着く。

タティは振り向いて『食べておいで』のジェスチャーをした。
あなたは?食べないんですか?

 

「俺はここで待っている」

あなたの分も払うつもりですと言っても、彼はいらないと言う。
そして、初めてにっこり笑った。

 

ーその笑顔。

男なら、こんな風に笑いたいと心から思うような、優しさと強さに満ちた顔。
じわっと染みるような。心からこちらを安心させてくれるような。

僕はいっぺんに彼の事が好きになった。

 

 

 

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