カンボジア 世界の旅

微笑みと優しさ、出会いのカンボジア  シェムリアップ カンボジア⑪

 

11月6日(月) 11時43分 【アンコール・トム近くの小寺

 

「これがバイヨンに最初からあった仏像のオリジナルです。壊されていたものが継ぎ合わされ、ここへ移動されました。これと同じものを彫るのが僕たちの今回の目的です。」

末松君はそう言いながら、仏像の周りをゆっくりまわる。

 

「こーさん、僕はこの仕事に誇りを持ってます。僕たちの造る仏像がバイヨンに安置され、カンボジアの人達にまつられ、世界中の人達に見てもらえる。

複製製作だけど、僕は複製を彫るつもりはありません。この本物のお釈迦様に負けないものを彫るつもりです。」

いつもと違う引き締まった表情を見せる彼に僕の身体が熱くなったのは、カンボジアの気温の為だけじゃない。

彼は静かに目の前のオリジナルを見つめ続けていた。

 



 

11月10日(金) 9:47 【ホテル近辺

昨晩ビッチャイと飲んで帰ってから、ザッと雨が降った。
一週間滞在しそんな雨にも驚かなくなって、むしろ降った後の街の様子が大好きになった。

 

 

今日はカンボジア最後の日。
来た日と同じように空気は生温く、その中を泳ぐように人は生活している。
そんな波に身体を漂わせて、僕は一週間滞在した街を歩く。

左手に食堂、右手の奥はラウンドリー(洗濯やさん)。

街中の小さな食堂は、大体1~4$くらいのお値段。ビールは大体0.5$が多かった。
店は小さくても作りたてで、野菜は新鮮でシャキシャキした食感が楽しめる。僕はほぼ、こういったお店で食事を楽しんだ。

また洗濯は宿にお願いする事もできるけれど、街中にはあちこちにお店があって、直接そこに持っていってお願いする方が安い。
洗濯とアイロンで1$だった。アイロン無しならもっと安くあがる。

 

外国人が集うパブストリートの一角。
夜は大音響の通りも昼間は静か。安食堂より値は高いけど、気持ち良い空間で食事できる。もちろん英語は通じる。

 

街を流れるシェムリアップ川沿い。

今朝ビッチャイからラインがあった。

 

「朝になって突然、下の子の調子が悪くなってしまって。今日空港まで乗せていく事が出来そうにないんだ。約束してたのに本当に申し訳ないのだけど…」

最後に彼に送ってもらえたら本当にうれしかったけど、子供の具合の方がもちろん大事。
気にする必要はない旨を伝え、ホテルのドライバーにお願いする事にした。

しかし大丈夫なのかな。早く調子が戻ればいいけれど…

 

シェムリアップ川に架かる橋には屋根があり、座って休憩もできる。
お酒を飲んだ後、ここでよく酔いを覚ました。少しの風が心地いい。

 

 

ゆったりとお散歩してお昼。
最後のランチはやはり一番のお気に入り食堂「REAK SMEY」で。

今日もここの看板娘は、変わらず元気に遊んでいる。お兄ちゃんの姿はない。
小さなこの子も、あっという間に大きくなるんやろうなぁ。

絶品のルックラックを食べ、店のご主人に最後の別れを告げて店を出た。
次にシェムリアップに来ても、必ずここで食べよう。そしてお兄ちゃんと妹の成長を見る。すごくすごく大きな楽しみができた。

 

 

++

 

 

15:05 【シェムリアップ国際空港

トゥクトゥクは街をのんびりと走り、空港にたどり着いた。
ドライバーに別れを告げると、彼はまた来てくださいとにっこり笑って言い、去っていった。

空港内に入って少しすると、突然に叩きつけるような雨が降りだした。
トゥクトゥクのドライバーさん、この中走って戻っていくことになってしまったな…

ひと時の大雨の後、美しい空が現れた。

チェックインまでにはまだ間がある。PCで今回の旅の記録をつけながら、空港内の人たちを見る。
小さいながらも多くの人が働き、それ以上に多くの旅行者。

様々な国からこの国に集まり、たくさんの思い出を持ってまた自分の場所へ帰っていく。
楽しかったり、腹が立ったり、切なくなったり涙が出たり。

あの柱の横で座る女の子も、カウンターで文句言ってるおばさんも、僕みたいにリュック背負って入ってきた若い男の子も。みんな『自分』で勝負して、少し『自分』を変えて帰っていく。
旅は本当にいいな。

 

さあ時間だ。

いろんなものを見せてくれ、たくさんの人に会わせてくれたこの国。
心の中でお礼を言って、僕はチェックインへ向かった。

 

 

++

 

 

11月11日(土) 日本時間12:30 【関西国際空港

乗り継ぎに中国の広州で一夜を過ごし、僕は八日ぶりに帰国した。

寒い。
カンボジアとの気温差は15℃。半袖にペラペラのシャツは秋の日本には薄すぎる。

茶色と緑の世界から、白と青の世界へ。
いや、曲線から直線の世界か。

バックパックに荷物をまとめ直しスマホの電源を入れると、保留になっていたメールが一斉に届く。

 

「Hi friend. You arrive Japan yet?」

ビッチャイからのLINE。どうやら下の子の体調は良くなったようだ。

 

「Take care my friend. Have a good day and Budda bless you!」(身体に気を付けて。良い日々と、仏陀の恵みがありますように)

 

カンボジアの友人は、今日も元気に走っているみたいだ。

 

 

旅後記

カンボジアは豊かな国でした。

激しい雨の後の、匂うような濃い緑。
そこに燦然とふりそそぐ太陽。
森林にそっとたたずむ遺跡群。
弾けるような子供たちの笑顔、大人たちの深い瞳。

日本の様に物が豊富で全てが行き届いているわけではないけれど、出会った人たちはみんな、強い光を宿した目を持っていました。
その光は、カンボジアの”未来”と言い換えてもいいものだと僕には思えます。

 

お土産を売りに来た子供たち、客引きのトゥクトゥクドライバー、市場のお母さん方や食堂のご主人…撮った写真を見返してみると、いつどこを切り取ったものも画になっている。
これは撮らせてくれた人たちが、今その瞬間をしっかりと生きているからなんじゃないか、と思えるのです。

ファインダーから見える彼らは、僕に問いを投げかけていました。
君は今を生きているかい?と。

 

ビッチャイとは今でもラインでやり取りが続いています。彼と出会えたこと、飲みに行ったあの夜は、このカンボジア旅での宝物のような思い出になりました。

 

アンコールワットをはじめ、いくつもの歴史的世界遺産を持つカンボジア。
遺跡修復やインフラの整備、人材の育成など様々な課題を抱え、まだまだ発展の途上ではあるけれど、そこに暮らす人々と自然は、時に温かく、時に激しく旅人を迎えてくれます。

 

さあ。あなたはここで、どんな人に巡り会えるのでしょう?

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